いつまでも消えない朝靄のように朦朧とした心持ちを奮い立たせて意識の海に波を立てようとするけど、濡れた雑巾で窓を拭っても水滴の痕跡がのこるように、奮い起した意識は一瞬でよわよわしい眠気に苛まれる。頭の中心が水蒸気でできていて、地に足がつかずにふわふわした感覚。しばらく肢体を動かさずにぼうっとしていると、その水蒸気が形を成していって綿雲のようだった地面が硬さを増してきた。
 昨日、佐緒里の家に住まわせてもらうことになった後の経緯を振り返る。今の状況をマンションの家主、引っ越し業者、学校など必要最低限のところに連絡。親には連絡しなかった。たぶんいらないだろうし。驚いたことは電話してすぐに業者から服や日用品が入った荷物が届いたこと。後に、ダンボールを今寝ているこの部屋に運び込んでそれを自分の部屋として使わせてもらうことに。そしてこれらの整理に夜を追われていた。結局ちょっと片付かなかったけど。
 それにしても、助かった。マンションについた時点で荷物の運搬を業者にお願いしてもらってたら俺の荷物はすべて灰になっていたんだろうし、佐緒里たちのような人と逢わなければ今頃は両手をだらしなくぶら下げた猿のような惰気をまとって住処を探していただろう。考えるだけでもぞっとする。あと、いくらか家にお金を入れなければいけないだろうから佐緒里にその旨を訊ねたら、
「いいよ? べつに。生活費はお父さんが払ってくれてるし。実はここ、お金はいっぱい余ってるから。あ、でもお父さんの件は始め断ったんだけどね。って、あれれ? なんか言い訳みたいになってる? うーん、まあいいや。じゃあそういうことだからっ」  ということだった。
 なんでお金がたくさん余っているのか、その理由は聞かないことにした。あまり良い内容ではなさそうだったから。まあ少なくとも学費は自分で払うことになるのだけど、公立の学校だから修学旅行代やらを含めて多くても月に三万くらい。別途で教科書、制服、便所のスリッパみたいな上靴。でも、それくらいならバイトの賃金でまかなえるだろ。十数万なら貯めたお金があるし。家族に頼ればって案もあるだろうけど、それは断固拒否、というかしてもらえないだろうしな。もともと保護者の反対を押し切ってここに来たわけだから、俺はここで親に頼らず生活できることを証明したい。
 この家で暮らす際に守らなければいけないルールがたった一つある。それは他人を制約するものじゃなくて、ただ当たり前のことを規則にしたものだった。出ていく場合は勝手に出ていかないこと、それだけ。まあその他にも月奈からとやかく言われたけど、それは常識をわきまえておけという内容をぎゃいぎゃい並べられただけだった。だから世帯主との約束は一つだけ。
 それにしても……家族。家族などから逃げて今ここにいるのにまた家族にとらわれることになるとはな。家族は嫌いだ。いい思い出がない。だから俺は――助けてもらってこういうひどい事を言うのは失礼だが――自分は家族の一員だと思っていない。ただの相互扶助団体でしかないところに入らせてもらっただけなんだと位置づけている。俺が彼らを家族と認めたら? 吐き気がする。忘れるべき出来事を踏みつぶそうと必死になっているのに、それがフラッシュバックする。あの三人が悪いわけじゃない。それが余計に俺を罪の意識の奥底に追い込んでいく。まあ、別に向こう側が勝手にそう思っている分にはかまわないけどな。そのくらい耐えるさ。
 それでも傍から見ればこの関係は同居人もとい家族、なんだ。あーあ、なんて滑稽さ。
 あー駄目だ。こういう負のスパイラルはあまり良くないなぁと思って頭の中で負の感情をすり鉢でゴリゴリとつぶす妄想をしていると、ドタドタドタと誰かが階段を上っている音が耳に入った。ゆっくり襖を横にずらす音と共に少女が顔を出す。
「まだ寝てるかなー……? って起きてる」
「おはよ」
「よく眠れた? わ、目が横棒みたいになってる。隆一、男の子なのにまつげ長いね」
 彼女、佐緒里が俺の部屋に足を踏み入れ、静かに畳の上で足を揃えて座った。正座を斜めに崩して座っているんだけど、これはなんて言うんだっけか。俺は昔からお姉さん座りと呼んでいたのだけど。既に洋服に着替えている佐緒里は俺を起こしにきたみたいだ。
 時刻は八時過ぎで学校は明日から。えらい早起きだな佐緒里。
「まあ、よく寝れた」
「本当? うーん、まあいっか。お布団は後で干すからいつまでもごろごろしてちゃダメだよ?」
「それはわかってるけど、なんだ、佐緒里って俺のこと結構ダメ人間だと思ってる節、あったりする?」
「え、いやいや、べつにそーゆーことはないよ?」
どうやらデフォらしい。
 普通の朝。射光と軽く身震いする冷えた空気。佐緒里が開けたガラス窓から入る新鮮な空気が肺に入ってくる。
「ちょっとお願い事、いい?」
 「新聞でも取りに行こうか」
「ううん、月奈ちゃん寝てるから起こしてもらっていいかな?」
「……え」
 出会って間もない男が女の部屋に入って起こしに行っていいのか? うーん、俺が耳年増(男版)なだけなのかな。まあ頼まれて断る理由がないし、住まわせてもらってる身だから従うけどさ。倫理の部分で悩んでいるのは俺の頭が堅めの思考回路だからなのか、暴力的なふるまいをするかもしれない月奈を忌避しているからなのか。
 と、一人逡巡している間に佐緒里は不安そうな面持ちになっていた。
「……だめ、かな?」
 虫一匹も殺せそうにない顔をこちらにのぞかせる。朝の肌白みがかった日差しが佐緒里の肌を桜色に照らし、潤みの含んだ眼がうつむきかけた。
不安そうな表情を打ち消すにはこっちがハイテンションになりきって誤魔化すのが一番てっとり早く事を済ませるやり方だ!
 ということで
「OK行こう。行ってみせようみせましょう」
「え、どうしたの」
「レッツらゴーゴーっ」  自分でもびっくりするくらい滑脱に口が回った。ちょっと無理やりな感じが否めないけどそれを振り切って部屋を出る。小美野家の部屋割りは一階にダイニングキッチン、リビング、和室などがあり、二階には空き部屋が三つある。梶野さんは一階の和室で生活していて、あとの俺を含めて三人は空き部屋三つにそれぞれ割り振ってある。廊下伝いに佐緒里の部屋をまたいだその先は月奈の部屋。その戸を開く。
「やっぱり寝てるか」
 質素。あからさまにメルヘン少女らしさを演出するピンクのかわいいぬいぐるみや小物やインテリアはなく、白い壁に縁取られた室内と窓際にかかっている花柄の白いレースのようなカーテンが品のある清楚な少女らしさを演出しようとしていた。
 だが、月奈は布団を下半分放り出して無邪気な顔で寝息を立てている。こうも自然な表情を眺めると小学生か中学生が眠っているようにしか見えないのはなぜだろう。昨日凶暴に釘バットを振り回していた本人だとは思えない。
 我にかえって、見とれていても仕方ないので起こすことに。
「おい、起きろ。おーい。おーきーろー」
 声をかけても起きる気配なし。規則正しい寝息が口からもれる音が聞こえるだけ。ほほには少し水気を帯びた髪の毛。体をちぢ込ませて眠っている。ちらっと見えるわき腹が滑稽だった。
 音では起きる気配が微塵もないので肩をとんとんとたたく。始めは軽くしたけど、一変せず幸せな寝顔なのが神経を逆撫で。もう容赦しない。
「しぶっとい、な、こんにゃろっ」
 ぐわん、ぐわん。
 振り子の揺れ。
「うー……」
 何度も反復させたあとの様子を見ると、幸せいっぱいな面持ちは唸る声としかめた眉とまあ、気分の悪いものになっているようだった。
「起きろ」
「……ん? ん」
 ぽふっ。だきっ。
 率直に包み隠さず言います。月奈が抱きついてます。俺の腰に手をまわして。
 何も言えず、標本にいるピン止めされた磔の虫のように全身を動かせない。別に体を固定される弊害を受けているわけじゃないのに、びしぃっと体が固まっていた。
 っていうかなんだこの状況昨日うしろから抱きつかれたのと逆じゃないかいや逆と言っても方向だけで俺が月奈に抱きついてるわけじゃないけども昨日は厚手の服ごしだったけど今は生地の薄いパジャマだから体温が温かみが直に伝わってくるって俺状況解説してるなんてけっこう冷静なのか?
 とあっちこっちの方向で想像の根を伸ばしていた次の瞬間、胸のふくらみのような感触がして頭の中が真っ白になったあばばばば。いや芥川龍之介じゃないけどさ。
「うん? なんかゴツゴツしてる?」
「あ、あのー」
 なんでかしこまった口調に。
月奈が俺の胸板に押し付けていた顔を上げる。ゆっくりと瞼が開いて、無言の中互いの視線が合う。
「? ……ッ!」
 ワンテンポ遅いなー……。なんか、慌ててる月奈を見たら心が落ち着いてくるわ。
「なな、何で隆一がわたしの部屋勝手に入ってんだっ!」
「そりゃ起――」
「うるさい言い訳なんて聞くかっ」
 聞いておいてその返答はないだろっ、という言葉が浮かんだ次の瞬間、何か嫌な気配が脳裏をよぎって月奈から一歩離れる。月奈は背に手を回してなにかを手につかみ、それを思い切り横薙ぎにはらう。空気が焦げた。
 案の定横薙ぎにしたそれは昨日見た釘バット。
「危なぁー!」 
 なんとなく一歩後ずさりしたからかわせたけど、下手したら直撃だぞっ!
「避けるな!」
「ムチャ言うなっ」
 当たったら骨までいくだろ!
 紅潮した顔で睨む月奈。朝から緊迫した空気が部屋中に伝播する。釘バットを握る手には力が入っていて、指先の色が黄色にかわるほどだった。加減する気など毛頭もなくて、もう数回振り回しそうだ。そう思って警戒していると――
「あーもういいっ」
 月奈は自制できるほどの冷静さを取り戻したのか、すっと釘バットを後ろにまわす。まだ釘バットを後ろに隠し持っていて、すぐに殴れる準備をしているんじゃないかと警戒していたけれど、もう胸の前に回した手にはなにもにぎられていなかった。安堵の息。
「また抱きついてくる気ならぶっ飛ばす」
「それしたのお前だからな」
「痛いところをつくな……」
 痛いところってそれ以外ないだろ。
「うん、ごめん。つい手が出てた」
あれ、結構素直に謝るのか。もうちょっとこじつけのような言い訳が出るかと予想してたんだけど。
「いやいいよ」
「許すのか? 下手したら骨までいってたぞ。こう、ボキィッと」
「わかってんならやるなよっ。……まあ、別に何もなかったからいいんだよ」
 悪い事をしたっていう自覚はあるみたいだし。
 月奈は手首で何かが折れたジェスチャーをしてこっちを見ていた。両の手を太ももの上に置いて、上目づかいになる。
「そうか、ありがとう。隆一はやさしいんだな」
 ふいに腹の奥から首根っこあたりが熱を帯びていく。この感覚の源が何かわからなくてもどかしい。
「……別にそんなんじゃない」
「ん? もしかして照れてるのか?」
「照れてない。とりあえずさっさと降りて来いよ」
 ああ、わかった。人に褒められることに慣れてないだけなんだろうな。それで不意打ちみたいに褒められるとなんだ、反応に困るんだ。
 そのことを悟られないように間髪を容れずに踵を返して出て行こうと右足の裏を床から離す。
「あ、ちょっと待て」
 その前に月奈が口で制していた。しょうもない理由で無視して部屋を去るわけにもいかずに立ち止まる。
「なんだよ」
「あー……のさ、今から少し変なことを言うが、真剣に答えてほしい」
「ああ」
「……わたしは、女の子らしいか?」
 空にある雲にできた円形の穴。空が間抜けづらで大きく口を開けているかのような、そんな不思議で間の抜けた質問だ。沈黙。それは滑稽で自然と笑みがこぼれるのだけど、意見は真剣そのものだとくみ取れた。だからこっちも真剣に答える
「寝起きに俺だとわかったときの慌てようは少し女の子らしかったな」
 でも後の釘バットは違う。ぜったい違う。女の子が振るっていい代物じゃない。
「うん。そうか、ありがとう」
「まあ、どうもいたしまして」
 嬉しそうに照れた月奈を横目で見て、二回目のありがとうを余韻にしながら部屋を出た。


 
☪ฺ



 佐緒里の作った朝食を食べて昼下がりに近づこうとするころ。
 軽い眠気が水を吸収するスポンジのように俺から意識を吸い取っていく中、朦朧としつつも明日の学校生活を思い浮かべていた。明日から高校に登校する二年からの編入生。新しい学校生活に多少なりとも胸が膨らまないわけはない。それに知り合いがいなくて心細い中、佐緒里や月奈と知り合えたのは僥倖だ。
 食器どうしがぶつかりあって甲高い音を立てているのが耳に入る。佐緒里は食器を洗っている。もしかしたら、この家に関する家事全般を全てこなしているのかもしれない。いや単に佐緒里以外の人の家事をしてる姿を見かけないだけだけど。でもあながち外れていないと思う。だって、月奈や梶野さんが家事するイメージが浮かばないし。これは失礼だけどでも、失言じゃない。
 多分親のいない生活の中でおのずから身についたものなんだろうな。
 ちなみに梶野さんは朝食のあとすぐに姿を眩ませていて、どうしたのか訊いてみると
「お出かけだってさ。お昼? お弁当作って渡しといたよ」
 というのは佐緒里の談。
 そんなとき、
「なあ、付き合ってくれないか」
 月奈の爆弾発言が耳に入った。意味を頭の中で咀嚼して、聞き間違いかもという線を疑ってみる。
「ごめん、聞こえなかったからもう一回」
「うん、ちゃんと聞くんだぞ? ……付き合ってくれないか」
 付き合う? いや違う。そういう意味じゃないだろ。絶対男女の親密な仲になろうという意味なんかじゃ。頭から煩悶としたものを取っ払う。こいつがこんなこと言うわけがない。
「……お前、遊んでるだろ」
「うん」
「お前は容姿だけはまともっぽいんだ。そのセリフだけ聞くと大抵の男はころりと傾くから気を付けてくれ……」
 そうかわたしは容姿はまともなのか、と独り言のようにもごもごと口をうごかしてもう一度俺のほうへと向きなおる。
「でも隆一は面白くないな。すぐ我に帰ってしまったじゃないかいじりがいのない」
「お前に弄ばれてるだけだと、それはそれで面白くないだろ。っていうか俺が嫌だ」
「わたしは楽しい」
「……だろうなぁ」
 閑話休題。
 互いに正面座りあう。
「で、何の用? 本当にただ俺をいじりに来ただけか?」
「いや、昼から買い物に付き合ってくれないかなって思って」
「あ、そう」
「ついてきてくれるのかありがとう」
「そんなことカケラも言ってな、むぐっ!」
 文句を言う口を塞がんと言わんばかりに、視界の下端で白い何かが口のなかに放り込まれた。突然の出来事に自失しつつも、口の中に入れられたものを咀嚼する。
 甘くてやわらかい一口大のおおきさ。始めはマシュマロと判断したけれど、口内から水分を奪い取るうざったさはない。砂糖菓子のような甘さがもちもちっとした触感とともに広がる。これは……
「食感はモチ?」
「もちもち」
「……もちろん?」
 そんな月奈は俺が食べた物と同じであろう物をビニールの袋いっぱいに持って、彼女自身もそれを食べていた。
「これ、なに?」
「ふところ餅」
「餅にしては甘くて食べやすくておいしいな」
「わたしの好物」
 普通に旨いな。サイズも一口程度だから手軽におやつ感覚で食べられるし。
 あれっ!? 普通に俺、懐柔された! ……まあいいや、おいしいし。(懐柔されてる)
「で、ついてきてほしいんだけど、いいか?」
「……わかったよ。どこ行くんだ?」
「秘密だ」
 もはや怒る気も起きない。どこに連れて行かれるんだろう。広大な草原の小道を馬車が何匹かの子牛を連れ去る情景が浮かぶ。ドナドナ現象とでも言っておこうか。
 月奈の挙動がいくら逸脱していても、この家での俺の立場は居候だ。月奈や佐緒里は居候が家で協力的にならないことに憤慨する人柄だとは思えないけど、最低限の義理として手伝わなければ俺が俺自身の人格を疑う。まあ、そうでなくても無下に断らずに手伝っているだろうけど。
 ただ、物事一つ頼むのに何度も遠回りする必要はないと思う。
「そういえばさ、梶野さんって何の仕事してんの?」
「それも秘密」
「なんだそれ」
 あまり触れるべきではない話題だったんだろうか。そんな了見がふと、心電図の大きくぶれた線のように突然頭をよぎる。
「まあ、そのうちわかる」
「それなら教えてくれてもいいじゃないか」
 そのうちわかる仕事なら世間的に受け入れ難いような仕事じゃないんだろうそれなら下手に隠さなくてもいいんじゃないか。
「う〜ん、まあ、教えないほうが面白いから黙っとく」
「……佐緒里に訊くか」
「じゃあわたしもついていこう」
 俺のジーパンが擦れる音に合わせて月奈も立ち上がる。
「それで佐緒里が言わないように仕組んでやる」
「それ、俺に聞かれたら仕組むって言わないんじゃないか?」
「隆一に聞かれたところで支障はないだろ」
 わたしの方が一枚上手だ、と言いたいらしい。
 舐められたもんだ。
「そうやって上から目線でいて、いつの間にか足元すくわれても知らないぞ」
「お〜い、佐緒里〜」
「聞いてないし……」
 昼食のメニューを皿に乗せている佐緒里に話しかける月奈。今日の昼飯はつるるんとした艶のあるハムエッグと美味しそうな光沢をもつ白米、緑と白が瑞々しいレタスにコントラストの強いトマト。なんかここに柔らかい日差しでも差し込んで料理を照らせば、一つの絵になりそうだ。
「佐緒里、梶野さんって何の仕事してるんだ?」
「お父さん?」
 月奈が俺の発言に尻尾をつけるように言った。
「佐緒里、面白そうだから黙っとこう。どうせすぐにわかるじゃないか」
「ふえぇ!? う、うーん……そうなの?」
「もうあいつの言うことは無視してくれ」
「ひどいな。そんなひどい奴の言うことはきかなくてもいいぞ」
「お前がいらないこと言わなければ俺はお前に冷たい言葉なんて言わないっての」
「ええっとー、どうすればいいの、これ?」
「言えばいいと思うぞ」
「言わなくていいと思うな」そこから矢継ぎ早に言う。「面白そうだし」
 うーん、とそれぞれの席の前に皿を並べ終えた佐緒里は指先を唇にあてて考え込んだ。
「面白そうかぁ……うん、黙っておきましょうそうしましょう」
「なぁ……っ!」
しかも微妙に朝言った俺の言葉の回し具合パクってない!?
「えへへ〜。だからヒミツだよ、隆一っ」
 その笑顔は反則だろうもう何も言えないじゃないか……と思った時。ぐぅ〜っと月奈の腹が鳴った。
「腹が減った」
「うん、じゃあごはんにしようか」
 各自席について、いただきますを言う。ふと思い返してみると、舐められたもんだというのはやられ役が吐くセリフだったし、そのときにもうこの結果は決まっていたのかも、と思えて不思議と笑みをこぼしていた。






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