「ただいま」
「ふー、腹減ったなー」
 もうこの家の敷居を跨ぐのにも躊躇いがなくなってきた気がする。
 すぐに佐緒里が廊下の端から顔を出して、駆け寄ってきた。ベージュ色を主としたエプロンを肩にかけている。若奥様みたいだ。家に入った時から、夕ご飯のおいしそうな匂いが食欲を刺激する。ちょうど晩御飯をつくっている途中のようだ。
「おかえりーって、あれ? 隆一とお父さんが一緒だったんだ」
「あの後公園で休んでたら梶野に遇ったんだ」
「んで、俺はこいつをいつものガキ共との遊びに付き合わせたってワケ」
 まあ小学生相手なので、体格の勝っている俺たちは味方をフォローする役に回った。梶野さんはたまにその立場を破って単独でドリブルしていたけれど。それにしても、子供たちがきゃっきゃとはしゃいで遊んでいる姿は思ったよりも良い印象があったな。梶野さんが好きこのんで子供たちと遊ぶのも分かる気がする。生意気で、容赦がなくて、馴れ馴れしいけど――本当に楽しそうで、幸せそうで、万遍の笑みや勝ち誇った顔がとても眩しい。
 こんな子供時代を俺もずっと過ごしたかったな。
「だからなかなか帰って来なかったんだね。今日は何をしてたの?」
「まあだいたいサッカーやってたな」
「うーん、行けばよかったなあ。今度おやつ持っていくね。なにがいい?」
「あれだ、パンの耳を揚げて砂糖まぶした奴。あれ美味かったぞ」
「いやだめだふところ餅じゃないとだめだ」
 後ろから月奈がひょっこり出てくる。
「おい、毎回それだな。それがお前の原動力になってるのか」
「ん? いや、そんなことを言いに来たんじゃないんだ。――佐緒里、コンロの火は見なくていいのか?」
「わっ! 忘れてた〜!」
 小走りで佐緒里が家の奥へと踵を返していった。俺たちも遅れて中に続く。佐緒里はコンロの火を消してフライパンの上に乗せていた蓋を持ち上げる。
「ふう、危なかった。ちょっと焦げちゃったかもしれないけど――まあいいよね」
 月奈が横から覗く。
「うん、ハンバーグだしちょっと焼き過ぎても美味しいはず。――ほらほらお前らはそこに突っ立ってないでさっさと食器の準備するっ」
「へいへーい」
 面倒くさそうな態度をとりながら梶野さんは戸棚から陶器の皿を4枚取り出す。この家では調理は佐緒里が主にするので、そのフォローとなるように他の人たちで白米をよそったりコップにお茶を注いだりするのが常になっている。ちなみに、まな板の上にあった玉ねぎを適当に切ってあげようかと思って佐緒里に声をかけたら、やめてほしいと言われたことがある。佐緒里いわく、これがたった一つの、失敗せずに誰かのためにできる仕事だからそれを奪わないでほしい、だそうだ。
 そんなこと言い方されたら、何もできないもんなあ……。
 その時だけ楽しそうに調理をしている佐緒里の背中が、酷く必死なものに見えていた。
「今日のメニューは、みんな大好きハンバーグですよ〜」
「おいしそう!」
 隣で月奈が目をキラキラと輝かせている。何事にも素直な性格をしている月奈はこういう時目一杯嬉しさを態度で示す。あどけなさが
 というか、月奈の好みって子供っぽいところあるよな。ハンバーグしかり、カレーしかり。
「はーい、もうちょっと待ってねー」
 皆が各々の席に着いていく中、佐緒里が皿に赤や黄緑の野菜とハンバーグを盛りつけていく。隣にご飯とみそ汁が添えられた。
「「いっただきまーすっ」」
「「いただきます」」
 家の敷居を跨ぐことは慣れても、こればかりはまだ新鮮味が抜けないみたいだ。少しだけ、背中がむず痒くなる。でも、それが嫌というわけじゃないから文句を言っているわけじゃない。なんだかこの満ち足りた空間がとても優しく目に映る。それがむず痒くさせているんだろう。
 いいなあ。こういうの。
「どう? リクエスト通りにできてるかな?」
「うん、美味しい! さすが佐緒里だ。わたし好みの味に仕上がっているぞ」
「ありがと。あ、お父さんソース取ってー」
「おう、ほらよ」
「ありがと、とととと〜っと。はい隆一、いる?」
「ああ、サンキュ」
 ソースをかけて一口サイズに切り分けたハンバーグを口に含む。佐緒里の言うとおり、焼き過ぎて外が焦げているがそれが逆に外側のカリカリと内側のふわふわを際立たせている。噛めば噛むほど肉汁があふれ出してとても旨い。ご飯が進む。ハンバーグを半分ほど食べた時には茶碗の中が空になっていた。
「隆一、おかわりいる?」
「あ、頼む」
「はーいっ」
 手渡しでご飯のお替わり。炊飯ジャーから移したばかりのご飯はまだツヤが入っていて食欲をさらに湧きたてる。
「ありがとな」
 受け取ったついでにお茶を飲む……が、舌に触れた瞬間に強烈な違和感が襲いかかった。
 お茶って苦い飲み物だよな。あ、甘いんだけどこの飲み物……。
 立ち上がり、不思議そうな目線を正面で受ける。
「どうしたの?」
 答える余裕が持てない。キッチンの流し場で吐き出して、口の中を水ですすぐ。ようやく口の中が落ち着くと、肌に感じる視線を無視しながら言った。
「なんかこのお茶甘いんだけど……」
「え?」
 その言葉を受けてすぐに月奈がお茶を口に含む。辛そうな顔つきになりつつも、それを飲み切った。
「佐緒里、これ甜茶だ」
 くいっ、と佐緒里も同じようにお茶を飲む。
「あ、ホントだ。ご、ごめんね……」
「ま、佐緒里なら仕方ねーだろ」
「佐緒里だから許す」
「二人とも、なんか落ち着いてないか?」
 顔色は変わらないし、愚痴一つこぼそうとしないし。
「うん、もう慣れた」
「いつものことだしな」
「近頃はマシだったかもしれないな」
「隆一に下手なところ見せないよう必死だったんじゃないか?」
 俺の時もそうだったしな、と梶野さん。
「下手なところ……ってどういうことですか?」
「も、もうっ。みんなしていじめないでよー」
 佐緒里が手をあたふたさせてうろたえているのを無視して梶野さんが続ける。月奈は佐緒里の頭の上を撫でてなだめていた――っていうかなんか嬉しそう?
「くははっ、隆一もなかなかに鈍いんだなっ!」
「いやお前も似たようなもんだっただろ。なに威張ってんだ」
「俺の事は気にすんな。で、隆一はもしかして佐緒里の事をどう思ってんだ?」
「へ? 単純に、素直でかわいい良い子だなあって印象しかないんだが」
 かああ、と佐緒里の顔が一瞬で紅潮する。
「かわいい……良い子っ? そ、そんなことないよっ」
「でも、ファンクラブがあるってことは、佐緒里は他の人よりかわいいってことだぞ?」
 そうでなかったら男たちが佐緒里に好意を抱くわけがないわけだし。
「ええっと、あれって本当にみんなわたしの事が好きだからで合ってるのかな?」
「はい?」
「だって、みんなが入ってるからわたしも入るっていうのあるでしょ?」
「赤信号、みんなで渡れば怖くないってやつだな」
「なんだその例え」
 ちょっと物騒だなおい。
「もしかしたらファンクラブに入った人たちもそれと同じかもしれない、って思ったの。むしろそう思いたかったのかも」
「玉突き事故?」
「無理に例えなくていいって」
 なんかその例え、微妙に違ってる気がするし。
「違うのかな?」
「さあ……?」
 そんなこと俺に聞かれても。と思ってたら月奈が代わりに口を開いた。
「本当に佐緒里を好きな奴らばかりに決まってる」
「証拠はあんのか?」
「ないな」
「うわ、それも言いきっちゃうのか」
「だって人を好きかどうか確かめる方法なんてこの世にあるはずないだろう?」
「まあ……確かにな。まああの熱狂ぶりを見る限り、ゼロってことはないだろうけど」
 自分で分かる限りの数は、まず親衛隊とそのリーダー30人ほど。あと、俺が学校の門をくぐって背中にひしひしと突き刺さるあまたの視線。その数の中で本当に佐緒里を好きだと思っている奴はどれだけいるのだろうか。ただ鈴なりになっている奴らが大多数なのかもしれない。
でも、少なくとも野次馬が群がっている風には見えなかった。組織として統率された活動をしている。
「っていうか、既に何十人という奴らに好意を寄せられてるのは結構普通じゃないと思うんだけど」
「そうなのか? 当たり前のことすぎて感覚がわらかなくなってるのかもな」
 だってこれじゃ、小学生の頃に足が速いだけでもモテていた美少年を女の子がキャーキャー言ってるのと、あまり大差ないだろ。高校生にもなってまさかそんなことは――あれ? 意外にあるような。足が速いだけってのは関係ないにしても、男どもがワーワー言ってるってのに違いはない、よな? 錯覚? いや、自分で言ってて存外に的を得てるのはわかる。夕がその性格が校内に知れ渡る前は女子から注目されていた節もあったし。
「そうか……そういうことだったんだな」
 なんだかとてつもない無気力感に苛まれる……。
「ん? なにがわか――ひゃんっ!」
 なんだか、ちょっとかわいい声が聞こえたと思ったら――スバシッコーンッ!
 潰れた蛙のような声を出した梶野さんが宙を舞って――ドスン。
「な、ななな、なにやっとんじゃーっ!」
「何って、お前の形のいいケツを撫でただけで」――ドカッ、バキッ!
「なんでわざわざ後ろに回ってまで、んなことするんじゃーっ!」
「フッ、そこに女のケツがあったか」――ゴスゴスゴスゴスッ!
「ぺしゃんこになれこんにゃろーっ!」
「痛っ! ホントに痛いからやめやめやめっ! ちょっとは手加減しがふっ!」――ズバンッ!
「る、月奈ちゃんそのへんでストップストップーっ!」
 はあ……今日も我が家は平和だなあ。
 と、お茶をゆっくり飲みながらそう思うのであった。この状況を見ても落ち着いていられるのはもう、大分見慣れたからなんだろうと妙な感慨深さに浸るのだった。





 学校。教室。暮れかけの空。傾きかけの太陽。夕暮れ時より少し前の頃。
 窓が日光を受けて斜線を作り出し、柔和な明かりが足元を優しく照らす。その温かみが俺をうたた寝の領域へと手招きしてくるが、頭を軽く振ってそれを振り払った。廊下の上には俺たち以外の誰もいない。窓からグラウンドを覗き見れば、部活に汗を流す生徒たちがぽつぽつといるのがわかった。野球部の野太い声やテニス部のボールを打つ高い音が主となって、窓の向こう側にいる俺の耳に入ってくる。やいのやいのと会話している俺たち。その声は廊下中に反響して、それがこの空間の空虚さを際立たせている。そこはまるで他の誰もが場に存在しない隔絶された空間のようにも思えた。
 端的に言えば、ここは特別校舎が横並びになっている東校舎の二階だ。
「で、今から何するんだ?」
「あれ? 隆一、誰からも聞いてないの?」
「いや聞いたんだけど……梶野さんって説明下手なところがあるからよくわからなかったんだ」
「ああ? なんでだよ、ちゃんと説明しただろうが」
「いちいち自分で話の腰を折って、話す予定だった道筋を右にも左にも逸れながら喋るからですよ」
「そこは、ほらあれだ。隆一の国語の成績が察してほしい状態なんだろ。具体的に言うと悪――」
「今さっき思いついた適当な言葉で誤魔化せると思わないでください。だいたいアンタ、俺の成績知ってるんですか」
「さーて、ゲームを始めるとするかな」
 あからさまに誤魔化しやがった!
「あ、このゲームの名前ってなんなんっすか。どうせ先生の行きつけのパブとかでやってる催し物かなんかでしょ」
 夕が流れを無視して言う。
 ああもう……ある意味これで本筋に戻ったんだしそのまま流しておくか。微妙だけど。
「んなこと自分の生徒にやらせるわけがねーだろ! そういうところでやってんのは――はっ!」
「センセ、もしかして……」
 月奈と佐緒里がそれぞれ白い目と引き気味の視線を向ける。口は開かない。無言の圧力が梶野さんを攻撃する。
 あれ? また話が変な方向に。
「お前、一週間締め出しにしていいか? さすがに身の危険を感じざるを得ないぞ」
「おと、じゃなくてええと……先生、そういうところ行くのはあまり良くないと思うよ?」
 ひどい誘導尋問だなあ。せっかくの発案者をこうもけなしていくとは。特に月奈のことだけど。それにしてもこの会話、家族以外の奴が聞いているのはかなりまずいと思うんだけど、まあいいか。もう俺はバレちゃってるし、もうこれ以上上隠すことに奮起するのは……疲れた。
「じゃあもう行かないと誓うか?」
「ち、誓うも何も行ったって証拠があるわけじゃないだろ」
「たまに、すごい香水臭くなって帰ってくる時がある。まあそれ以上に酒臭いんだけど」
「くぅ、そん時はお前らが寝静まった後に帰っていると言うのにっ」
 不敵な、片方の頬をつりあがらせる笑い方をした月奈がさらに追随する。
「で、もう行きませんは?」
「ま、まってくれ。あの匂いはこの学校の香水臭い女性教諭からつけられたもので――」
「そんな言い訳聞くか。お前はそこからさらにあらぬ嫌疑をかけられてその立場をボロ衣のような状態にしたいのか?」
「ぐぬぬ……」
 このまま歯ぎしりしそうなほど苦渋の感情を露わにしている梶尾さん。
「あの――さ、ちょっと訊きたい事が少々あったりなかったりするんですが」
 突然、二人の一喜一憂を傍観している加宮が全員に尋ねた。
「なんで先生がいつもさおりんの家に帰っていることを前提にして話が進んでるの?」
 あ、そこ気付くのか。このままスルーしてくれればよかったんだけど、そりゃ気付くよな。
 ちなみに月奈も梶野さんもしまった……と言わんばかりに少し瞳を伏せて青ざめている。
「先生、説明をしょもーします」
 しょもー? しょもー……って所望か。
「月奈、こうなったのはお前のせいだぞ」
「いや、梶野がいかがわしいお店に行っているからこんなことになったんだ。はあ、まったくこれだから男というものは好きになれないんだ」
「いやだから本当に行ってねえって――」
「ハイ、そうやって誤魔化そうとしてもダメだからねっ。美湖ちんは噂話に過敏なのです!」
 美湖ちんって自分で言うなよ。
「あーはいはい。俺は時々……つーかほとんど毎日晩御飯の時にお邪魔して、メシを食わせてもらってんだよ」
 こいつ堂々と嘘を言い始めやがった! しかも表情一つ変えてない。恐ろしい奴だ……!
「つまり乞食と」
「やかましい。つまりはそういうことだ。一週間締め出しは、俺にとって一週間メシ抜きと同じなんだよ」
「羨ましい! 女の子の作ったご飯を食べる! そんな素敵イベントになんで俺は巡り合えないのさ!」
 なんか夕がひとりでに嘆いているんだが。
「知るかよ。自分の母さん若返らせて作ってもらえばいいだろ」
「なんかその例えはリアルすぎて嫌だね……」
 まあ俺もちょっと想像したい感情がはばかられる。
「……んーと、あれ? 別に料理つくってるだけじゃ――わぷっ」
 あ、佐緒里の口を月奈が塞いだ。まあ梶野の虚言の方が俺たちにとって好都合だよな。さすがに教師と生徒、しかも苗字が違うから実の家族でないことがすぐわかる関係ってのが露見されるのはまずいだろう、世間体的に。教師陣には知れ渡っているだろうが、生徒らに知られているのといないのでは大分違う。
「どうかした?」
「いや、なにもない」
 パッ、と月奈が手を背中に回す。それを見兼ねた加宮が佐緒里に追随した。
「ほんとに〜?」
「嘘じゃない嘘じゃないっ」
 さすがに佐緒里も俺の時とは違い、月奈の意志を察したみたいだ。余計な事を喋らない。
「まあ無理に問い詰めたりしないけどさ」
「えへへ、ありがと」
「でも本当に大切なことがあったらちゃんと言うこと。わたしでよかったら協力するから」
 そう言って加宮はわざとらしく大きな咳をした。多分、一度仕切りなおして閑話休題するためのものだろう。
「とりあえず話を戻そうかな。えーっと、どこまで戻ればいいのやら……あっ、このゲームの内容を説明しようか!」
「そうだな。このままじゃ雑談してるだけで日がくれるかもしれない」
 よーし、と言って加宮は説明を始める。
「このゲームは通称尻尾取り合戦と呼称します。まあ、今ウチが命名したんだけどね。まずAとBのグループに分かれてもらって、Aグループが尻尾を追いかける側。Bグループが逃げる側ってことにしておこうかな。追いかける側の方が人数少なめってことにしよう。あ、桜田君は強制でAグループね」
「え? どうしてだよ」
「まずこの集まりの趣旨が、まだこの学校の地理を把握してない桜田君を案内してあげよう、だからだよ」
「それがなんでこういうゲームをすることになるんだよ」
「いやまあ、ただ案内するだけじゃ楽しくないじゃない?」
 ああ、なるほどね。ちょっと遊び方が幼稚な気がするけど……その辺は無視したほうがよさそうだな。それよりもこれが校舎の全容把握に繋がるのかどうかが疑問だ。なんかただ遊びたいだけじゃないのかという邪推まで浮かんでくる。
 俺の方へと理解が及んだことを察した加宮は説明を続ける。
「もちろんBグループには尻尾を付けてもらって、思う存分逃げ回ってもらいます。逃げられるのは東校舎だけで、屋上は禁止。Aグループがそれを追いかけて、全員分の尻尾を捕まえたらその時点で終了。取った尻尾は持ち主に返してあげてね。持ってても邪魔だしまた使うから。尻尾を取られた人はまあ……とりあえず取られた人に付いて回っておいてくれればいいや。あ、妨害はダメだよ?
 でも一方的に逃げているだけじゃあ面白くない。ということでそこからあるルールを追加することにしました。それがこのお札」
 加宮は自分の右ポケットから手の平に収まりきらない大きさの、縦長の紙でできた札を取りだした。神社で売っているようなものだが、恐らくそのへんの雑貨屋で買ったものだろう。あまり神社で売っているような材質のものには見えない。
「これをBグループの人に10枚ずつ渡しておくね。で、これをどーやって使うのかというと――えいっ」
 俺の背中に近寄り、例のお札を張り付ける。べりべりという音と共にそれを剥がしておいた。どうやら粘着シールになっているらしい。
「実はこれ、ステッカーになっているものなのです。んで、これをAグループの人に3回張り付けるとその人は5分間行動不能になって、その人が捕まえてない尻尾をBチームの人がもう一度付けていいという二重のペナルティが課されることになるんだよ。つまりは復活ね。それでどちらかのチーム全員が行動不能になったらそのチームの負け」
「自分が捕まえた以外の尻尾? なんでそんな回りくどくしているんだ?」
「例えば、一人が尻尾を取りまくったとする。で、その子がすごく強いとする。もしルールがカウント3になったら自分が捕まえた尻尾を持ち主に返す、だったらその子を倒せないから尻尾も戻しようがないでしょ? だから自分以外なの」
 なるほど。……っていうかまるで月奈のことのようにしか思えないんだが。
「って、ちょっと待ってくれ。3回は緩くないか? 誰かが両手に持って張り付ければそれでリーチがかかるんだぞ?」
「あ、そういうと思ったから張り付ける時にはステッカーは片手一枚しか持てないってことにしたよ。だから両手に一枚ずつ持つのは禁止。ついでに同じ人が間髪入れずに連続で張り付けるのも禁止。これでどう?」
「――ああ、それならなんとかバランスが取れるな。それで、人数の比率はどうするんだ?」
「うーん、とりあえず4対2で。あ、桜田君はもちろん2の方ね。尻尾追いかけるほうでよろしく〜」
「わかった。じゃあ相方もささっと決めちまうか」
「誰が良い? 桜田君が選んでいいよ」
「あー、じゃあ……」
 誰が適してるんだろうか。勝負するからには勝ちたいわけで。そのために一番優れたパートナーを選びたいな。
 と、顎に手を当てて逡巡していると、いきなり肩に腕を載せられた。
「俺がなってやるよ」
「梶野さん?」
「おう、まかせろ! 俺とお前だったら百人力だ。黄金コンビだな!」
「よし! 俺たちの友情パワーを見せつけてやりましょう!」
「アハハハハハ!」
「フハハハハハ!」
 即席すぎて結成間もないってどういうことだよって感じだけどなっ! ってあれ? 優秀なヤツを選ぶんじゃなかったっけ? 月奈一択なはずだが―ーまあ細かい事はいいか!
「あれ、なんかこの二人怖いぞ」
「脳内麻薬が過剰分泌されて頭がおかしくなっちゃったのかね」
 なんか夕と月奈がひそひそ話をしているように見えたけど、気にしない!
「じゃあはじめるよー。3分したら二人は動き出すってことでよろしくっ!」
 加宮はそう言って、月奈と佐緒里の手を取り廊下の向こうへと消えていった。彼女らを後追いするようにして夕も廊下の向こうへと消えていく。






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4-1 4-2 4-4 4-5 4-6


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