――Aチーム(隆一、梶尾)勝利条件
   ・Bチーム全ての尻尾の奪取
 ――Bチーム(佐緒里、月奈、加宮、夕)勝利条件
   ・Aチームの各メンバーに3回ずつお札のシールを体に貼付



 やがて、灰と乳白色で構成された廊下が殺風景さを改めて醸し出す。
「さて、どうするよ兄弟」
 誰が兄弟か。
「……とりあえず月奈は警戒すべきですよね」
「ああ。あいつが敵なのはまずい。オーバースペックだ。捕えるのに一苦労するだろうな」
「じゃあ分かれて月奈以外を捕える算段で行きますか。邪魔されたくないし」
「よっしゃ――ってお前、学校の案内兼ねてるのに個々でいくのか?」
「妙なところで律義なことで。じゃあ二人で行きましょう」
 言うが早く梶野さんが歩きだしたので、3分経ったことを確認して歩き出す。
 等間隔で刻まれる足音と心音の大きくなる感触が、じれったさを生んで心の余裕が擦り減らす。でもその奇妙な感覚が心地よかったりする。ちゃんとここで生きてるという実感が湧く。
 梶野さんが前を見ているので、俺が時折振りかえって後ろを任されることにする。追う立場のはずなのに、こっちも捕まえられてしまうルールが設けられているものだから迂闊に一人になってしまってはいけないのかもしれない。
 ……ん? 意外にそうでもないかも。
「そういえば俺たちって2回までセーフなんですから、別に1回くらいは特攻してもいいんじゃないですか?」
「あー……でも向こうが数で攻めてきたら必ず一人はアウトになるぞ」
「二人いれば多少の無理は効くと思いますが、どうでしょう」
 少しだけ眉間に皺を刻む梶野さん。
「ハッ、いいんじゃねーの。敵が乗り込むのを待つのも性に合わねえしな。やっぱり敵はこっちからブチのめすのが一番いいぜ」
 そう言って梶野さんはすたすたとためらいなく歩いていった。突き当たりの右手を向くと、
「あ、さっそくいた」
 ちょうど階段を下りてくる佐緒里と加宮がいた。
「隆一、追うぞ!」
「ああ!」
「佐緒里、逃げようっ」
「う、うんっ」
 性急に判断して逃げる二人。階段を駆け上がった先で佐緒里が左に曲がった。その背中を目で追う。数日前に親衛隊の奴らに追いかけられていたのとは逆の状況だと考えると、複雑な気持ちになるがその思考を振り切った。
 こっちは男で向こうは女の子だ。全力で走れば追いつける。梶野さんの顔は伺い知れない。俺の方が一歩前に出ているからだ。でも多分この前小学生と遊んでいた時と同じ表情をしてるんだろうなあと予想はついた。
「うきゃうっ!」
 黄色い声と共に佐緒里が前のめりに倒れているのが見えた。どうやらつまずいたらしい。
 っていうか縞パン……。佐緒里って前々から思ってたけどドジの素質があるんじゃないのか?
 子犬の尻尾を取ろうと手を伸ばす。難なく奪取することができた。
 直後に、ふと小さな違和感が生まれる。何かが足りない。見落としている気がした。
しかしもう遅い。階段を登りきった時点で警戒すべきだったのだ。しまったと思ったその刹那、背中を強く叩かれる。踵を返して梶野さんが既に背中を叩かれているのを目で確認。いや、何かを張り付けられていた。お札の形をしたシール。悪霊退散と書いてあるのがかろうじて読み取れる。これがカウント3でアウトにさせるためのシールだ。俺も背中に手をまわして見ると、異物の感触がした。張り付けられたのだ。俺と梶野さん、カウント1。
「やったやったーっ」
 そして握りこぶしを作ってはしゃいでいる人物は加宮だった。当然と言えば当然だろう。
「あ、後ろで隠れてたのか!」
「ふっふーん」
 梶野さんが言い、腰に手を当てて誇らしげな表情をする。気が立ったのか梶野さんはすぐに加宮ほうに向き直って強く地面を蹴った。
「に、逃げるが勝ちっ!」
「逃がすかっ!」
 少し遅れて脱兎のごとく廊下の奥へと走る加宮。二人の間にある距離は教室2つほどだ。
「いぃーやぁあー!」
「まぁぁーでぇー!」
 それにしても会話だけ聴くとストーカーとその被害者が派手に立ち振る舞っているようにしか見えないな。まあ男と女だし体力の差でなんとか追いつくだろうし放っておくか。
「ぶべっ」
 そんな風に2歩後ろで様子見していると、梶野さんがいきなり派手にすっ転んだ。情けない姿勢のまま動かなくなる。すごく痛そう。頭から突っ込んだように見えたのだけれど……意識はあるだろうか。
「な、縄跳びか」
 廊下を横切るようにして、すねあたりの高さにピンと張った縄跳びが仕掛けられている。どうやら事前にしかけていたらしい。
「ざまーみろーっ」
 加宮が転んだ梶野さんの姿を見て、満足げな表情を浮かべる。すぐさま2枚目のシールを張った。そしてすぐに踵を返し、逃げだそうとするが――
「はい、そこまでな」
 すんでのところで尻尾をぐわしと掴んで引き抜いた。加宮の動きがぴたりと止まって左右で二つに結わいた髪が遅れて肩の上に垂れた。
「……し、しまった」
「ちょろいな」
「ううっ、ウチらは佐緒里と一緒に囚われの身になってしまうのね。そして身ぐるみ剥がされてあれやこれやの大惨事……っ」
「そんな暴君じゃないって」
「さーおりーんっ! 助けて助けて二人がいじめるのーっ!」
「え? きゃうっ!」
 加宮は後ろから歩み寄ってきていた佐緒里に抱きついて、顔をすりすりと押しつけ……って。
「おい、ノックダウンしてるぞ」
「えっ?」
 どうやら勢いが良すぎたせいで頭を打ち付けて意識が飛んだらしい。
「さーおりーん!」
 りーん、りーんとむなしい叫びが廊下中に反響した。





 数分して目を覚ました佐緒里の頭をさすりながら加宮は言った。
「やー、ごめんごめん。大丈夫だった?」
「あ、美湖ちゃん。……って、あれれ? わたしなんで倒れてるの?」
 えーと、えーと、と唸ってやがて何かを思い出したかのようにぱっと顔をあげた。
「そういえば頭を打ったんだったよ。あうー、じんじんする〜」
「そんなに痛むのか?」
 目尻に涙をためながら、打ちつけてしまったところをまるで腫れものにでもさわるかのように優しく撫でている。いや実際腫れものだけれども。
「ちょっと。でもこれくらいならがまんするよ」
 胸の前で拳を作って気合いを入れてる、んだろうなあ。覇気がないからとっても微笑ましく見えるんだけれど。目尻の涙も拭えてないし。
「でもごめんね、さおりん。悪気はなかったんだよ」
「わたし、怒ってないよ?」
「そうなの?」
 こくこく、と2回頷く。
「あなたが女神か!」
「みみみ、美湖ちゃんっ?」
 ひしっと抱きつく加宮。なんだろうなこの入り込めない空気。まだゲームは終わってないんだけれど。
 まあ、ぽつねん立って待ちぼうけをしているわけにもいかないよな。
「そろそろ行くぞ?」
「「はーい」」
 揃った返事。二人が立ちあがったのを確認して、残った月奈と夕についてのことを考える。
「それにしてもいい音だったよね」
「うん。びっくりしちゃった。気絶するとは思わなかったよ」
「すごい勢いで頭打ってたもん」
 ……なんだかこの二人の会話を聞いてると緊張感が抜けていくな。二人の会話は耳に入れないようにしよう。
「なあ、佐緒里のことを心配するのはいいんだが、すっかりさっぱり俺の事を忘れているのは一体全体どういうことだ?」
「あ、梶野さん大丈夫だったんですか?」
 特に心配はしてなかったけれど。この人の場合、多少の打撲なら大事に成りそうにないからなぁ。月奈の強打を受けても少し苦しんだだけで済んでいるし。
「今言うかそれを」
「まあまあその辺は水に流しちゃいましょうよ」
「お前が言うかそれをっ」
「だってそうでもしないと話が進まないでしょう?」
「開き直りもいいとこだろ。あ、オレもオメーがこうなったとき助けなくていいって事か」
「いや、そういうわけじゃ……」
 というか今の居候という状況が既に扶助してもらっているわけだし。梶野さん関係ないけど。
「ハハッ! 冗談だ。オメーが困った時はちゃんと助けてやっから気にすんな」
上機嫌でそうに腕を組む。
この人から見た俺たちはやっぱり子供なんだろう。公園の子供たちよりずいぶん大人びた風体をしていても、やはり大人になろうとして背伸びをしている子供のように見えているはずだ。だから守るべき存在として扱われている。
梶野さんが小美野家の父親となっている訳が少しだけ分かった気がした。
閑話休題。
「梶野さん、次はどうしましょう」
「そうだなあ。極力お前が前に出て尻尾を取りに行ってくれないか? 俺はあと1カウントでアウトになるからよ」
「それは非常にまずい状況ですね」
「ああ、しかも月奈がまだ捕まってないしな」
 梶野さんがアウトになると、俺が捕まえた佐緒里と加宮に尻尾を返さなければいけなくなる。それが最悪の状況。幸い、誰が誰を捕まえたのかは相手側に分からないままだが、それでも必然的に狙われるのは梶野さんだろう。
「二人がかりじゃなんとかなりませんかね?」
「オレ知るか。でもま、あいつが捕まえられたらオレらの勝ちだな」
「夕だけなら十分に勝機はある、か」
 長い息をこぼしていると、突き当たりの廊下から横切っていく何かが見えた。遊ぶように長い髪が揺れて、それと同じようにスカートの裾が踊っている。
「おい、月奈だぞ」
 始めに見つけた時、身震いが全身を襲った。彼女に立ち向かう心構えができていなかったからだ。普段はこちら側に立ち、先陣を切っていく月奈だがいざ敵になるとこれほど恐ろしい者はない。あまりに規格外な動きをするものだから、勝ちの芽がどこにあるかもわからない。
しかし向こう側が気付いていないようなので、ひとまず安堵に胸を撫で下す。
「追いましょう。隠れて背後から尻尾を奪えば俺たちの勝ちです」
「がってんしょうちのすけ」
「古っ」
「あ゛?」
「……なんでもないです」
「そうか。おい、佐緒里と加宮。今から隠密行動をすっから静かにしてくれよ」
「了解でっす梶野せんせー。びしぃっ」
 セルフ効果音の敬礼を想像していただければその通りかと。
「よし行こう」
 下履きを脱いで極力足音を地面にしみ込ませるように努める。言葉を交わすことなく互いに頷き、急ぎ足で月奈が歩いていった道に沿って後を付けていくが、
「あれ? いないよ?」
 佐緒里の言うとおり、さっきまで見かけていた月奈の姿は欠片もなかった。違和感。まさかさっきの加宮と同じで俺たちが来るのを見越した上で背後に回っているんじゃ――そう考えて踵を返す。
「後ろにもいないのか。おかしいな」
 事実上完全に見失ったというわけだ。でも今のに見失うような時間はあっただろうか。念のため手当たり次第近くの教室を覗いてみるが、月奈は見当たらない。さらに念を入れて、教卓の下や掃除道具を入れるロッカーの中を探したがそれも徒労となった。不思議な消え方に首を傾げつつ教室から出てみると、
「あっ」
 佐緒里が跳ねるような声を上げた。
「どうした?」
「も、黙秘権を行使しますっ。えとえと、相手側の背中を押すようなことできないって意味だよ?」
 何かを見つけて声を漏らしてんだから黙秘も何もないんじゃないか?
 そんな野暮なことは胸の内にしまっておいて、さっき佐緒里が声を上げた方向を向く。月奈だ。廊下の向こうにいたはずの彼女は今、すぐ右手にある階段の上に消えていった。なんでそっちの方にいるんだろうか。いや、考えるよりも追うほうが先だ。
 さっきと同じように気配をできる限り小さくして、見失わないように努める。人知れず、まるで諜報のようなことをしているような感覚。精神の昂りがすさまじく、それだけに心の余裕があまり持てていない自分に歯噛みしてしまう。楽しさともどかしさの入り混じった奇妙な物体が心を刺激する。胸が躍った。
 そして次の角を右に曲がる。するとさっきまでいたはずの月奈の姿が痕跡一つ残らず消えていた。
「あれ? またいなくなった」
「さっきこっちのほうに曲がってたよな、あいつ」
「うん。そうだった」
 加宮が言う。
「実はこの学校はもともと墓地で、そこの幽霊が夜な夜な校内を徘徊してて、何も知らずに入り込んできた人間に無理やり憑依することで幽霊を殺した人間たちに無差別な復讐を――」
「あ、いた。また全然違うところにいやがった」
「無視っ!? 無視ですかっ!?」
「正直そんな話より月奈の行方の方が気になってたんで」
「うわーん。さーおりーん。皆がいじめるいじめるーっ!」
 佐緒里の胸元へと飛び付く加宮。情動を押しつけるぬいぐるみのような扱いだった。
「あわわっ。わ、わたしはいじめてないよっ?」
「心の友よーっ。あなただけがわたしの最も信用できる御仁じゃーっ」
 どんな口調だ。
だんだん加宮がおかしな人に見えてくる。
「えへへ。ありがと、美湖ちゃん」
 ツッコミ所満載なのをことごとくスルーする佐緒里。うーん、やはり天然か。
 しばらく月奈を見つけては見失い、また見つけては見失うという堂々巡りを繰り返した。長い時間、精神を張り詰めていたせいで頭の奥は痺れて、集中力は摩耗されたせいでほとんど残っていなかった。じれったさにほぞを噛みつつ、佐緒里と加宮のなごやかなムードに癒されつつも月奈を追った。踊らされているような気さえしたが、結局……
「あーもうまどっころしい! 逃げすぎなんじゃこのやろがー!」
 そのままで状況が過ぎて行った。ついでに梶野さんが荒れていた。胸の前で拳と手の平を何度もぶつけて気合いを入れている。一回だけポケットに伸びた手が白い小さな紙箱を掴んだように見えたのだけど、口には出さないでおいた。
「あいつ、次見つけたらぜってー捕まえるっ」
 それにしても、どうして逃げてばかりで攻めてこないんだろう? 俺達が二人揃って行動しているとはいえ、月奈ならどうにかできると考えているはずだ。俺たちも月奈の身体能力には勝てる気がしない。数人がかりで男が襲ってきてもそいつらを伸すことができるだろうし、釘バットで梶野さんを宙に浮かせてしまうのを見てしまったし。
 梶野さんが突然提案を出す。
「あ、そうだ。佐緒里をダシにしておびき寄せてみようぜ」
「あんたやってることが、かなりあくどいですよね」
 プライドも何も全て捨てているんだろうか。
「でもあいつ佐緒里がピンチになったら絶対駆けつけるぞ。親衛隊が佐緒里にちょっかいをかけないのは、すぐに駆けつけるあいつがいるからってのもあるからな。もしかして離れていても佐緒里のことをどっからか見てんじゃねーのか? あ、それがストーカーか」
「酷い言われようですけどだいたい合ってるのでフォローの一つも言えませんねえ」
「だろ?」
 梶野さんは大人らしい余裕を見せた笑みを浮かべて言った。
「じゃあ佐緒里、ほれほれスカートまくらせろ」
「……えっ? な、なに梶野さん。目つきが怪しいよ?」
「今日は何色だ? 白か? しましまか?」
 本当にただの変態にしか見えない。というか梶野さんは、さっきのしましまを見てなかったんだろうか。
「ええええっ? な、なんかやだこないでおと……じゃなくて先生っ」
 というか、
「そんなこと」
「ウチらが」
「許すわけないだろうこの変態中年がーーーーーーーーッ!」
 ズバッシッコーーーーーーンッ!!
 え?
 瞬きの間隙。視界に残像が二つ現れる。
 一つは梶野さん。気づいたら宙に浮き、そのまま数メートル彼方へ吹っ飛ばされていた。今は奥でうつぶせになってぐったりしている。
 もう一つは月奈だった。
 わけがわからない。俺と加宮が梶野さんの愚行を止めようとしたら、そこにもう一つ怒声が割り込むように飛んできた。気づいた時にはもう梶野さんが数メートル先に吹っ飛ばされていて、梶野さんのいた場所には釘バットを持った月奈がいたのだ。
 そのまま月奈は梶野さんに近寄ってその背中に勢いよく足を乗せた。
「高校生に色目使ってるんじゃないこのロリコンがっ。お前のような男どもがいるから佐緒里が変な目で見られてるんだっ」
「冗、談だっ。俺がっ、そんなことっ、するわけ、ねーだろっ」
「嘘つけっ。あの目は本気だったっ」
 ん? これってもしかしてチャンス?
「お前を、おびき寄せるための、演技だって、ぐはっ」
「このエロオヤジっ、変態、ヘンタイっ!」
 月奈は頭に熱が回りすぎたせいで、梶野の事しか目がいっていないようだ。さっきから罵倒ばかりして我関せずにバイオレンスな痛みを与え続けている。痛そうだ。ああでも今は釘バットを使ってないだけマシなのかもしれない。
「ほいっと」
「ひうっ」
 月奈の黒い鍵尻尾を引っこ抜いた。暴力に熱が入っていたせいで他への注意がおろそかになっていたのだ。
「しまったっ」
 すぐにあがった短い声と共に月奈は腰の下を抑えて、スカートを思い切り翻しながら俺の方を向いた。
「これでアウトな」
「ひ、卑怯だ不意打ちなんてっ。お、女の子を後ろから襲うのは男の風上にも置けないなっ」
「いやいやそっちが勝手に来たんだろ。後ろからっていうか俺たちがいるのもわかってたのに梶野先生をボコボコにするのに夢中だったお前が悪い」
「うぐぐ……まあ、いいか。どうせ――」
 月奈は捕まったにも関わらず嫌な笑みを浮かべ続けている。まるで安心しきっているかのような表情だ。
「でかした隆一! これであとは夕だ「残念でした、センセ」」
 ペタリ。
 声と、気配。
 即座に月奈の後ろを覗きこむ。
 ずっと頭に隅に除けて考えないようにしていたその男。
 月奈の事を念頭に置いたせいで対策を二の次にまわしていたその男。
「はい、梶野センセはカウント3ね」
 夕がそこに立っていた。
「てめえ……っ」
「ふっふっふ。こういう形になると思ってたわけじゃないが――まさかわたしが囮だと思わなかっただろう?」
 振り返って、片頬を吊り上げる嫌悪感を含んだ笑い方をする月奈。
 まさかこいつわざと俺たちの前に出て自分から捕まったのか!?
 梶野さんがアウトになったということは、俺が捕まえた3人は全て解放されるということ。
「ふっふっふー。逃がさないよー」
「隆一、逃げろ……!」
 俺を囲むように散らばる面々。
 梶野さんは5分間全く行動ができない。だからまず自分の力でここから逃げないといけない。だが、
「さー隆一。逃げれるもんなら逃げてみろ」
 逃げ道がない。4対1で既に取り囲まれている状況だ。無茶にもほどがある。
 一歩ずつ着実に、そして少しずつじりじりと迫ってくる。
 窓は? ここは3階だ。飛び降りれない。教室のドアへの道は塞がれた。遠慮がちな佐緒里は突破できそうだが、その背後には月奈が控えている。不可能だ。
 こんなのって、
 こんなのって、
「無理にきまってんだろバカヤローッ!」


 GAME SET――Win:B team






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4-1 4-2 4-3 4-5 4-6


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